ガソリン税の継続あるいは廃止の主張の論理を分析する 1


東京新聞「ガソリン税暫定税率 2008年1月27日 朝刊」という記事に書かれている、自民党民主党双方の主張に対して、その論理の流れを分析してしみようと思う。その接続詞の使い方などから、その論理がどのような流れになっているかを見てみたい。まずは、自民党道路調査会長 山本有二氏へのインタビューの中から、次の主張を取り上げて考えてみよう。

「――暫定税率はなぜ継続しなければならないのか。

 「道路整備、維持の財源だからだ。自分の家の前、会社や病院までの道路を整備、改良してほしいのは全国共通の願いだ」」


ここで使われている「だから」という言葉は、その理由・根拠を提出するときに使われる。「継続しなければならない」ということの理由として、暫定税率が「道路整備、維持の財源だ」ということは果たして説得力があるだろうか。それを補強するものとして、「自分の家の前、会社や病院までの道路を整備、改良してほしいのは全国共通の願いだ」という主張もされている。

論理の流れとしては、これはあまりに単純化(短絡化)しすぎているように感じる。暫定税率を「継続する」というのは、継続しなければ不都合が起きる、あるいは継続していればこんなによいことがあるということが提出されてこそ説得力があると考えられる。長所と欠点がほとんど語られず、単に「財源である」という事実を語るだけで「継続しなければならない」ということが論理的に導かれるとは思えない。

このような論理が通用するなら、今まで財源として流用していた不正なものでさえも、それが「財源である」という事実があれば、そのまま使い続けていいという論理さえも成立してしまう。実際には、その財源を使うだけの理由と正当性があってこそその財源が存続する理由が成立するのである。

さらに、この主張を補強する目的で語られている「願い」についても、論理的にはピントがずれているといわなければならない。確かにそのような願いがあることは事実として確かめることが出来るだろう。しかし、その願いがすぐにガソリン税の継続を導くという論理的な流れはそこにはない。そのためには、ガソリン税の継続が、その願いを実現するのだという具体的なつながりの指摘がなければならないのだ。それなしに、単に願いを語るだけであれば、自民党はその願いをかなえる政党だという気分を盛り上げているだけに過ぎないだろう。

このインタビューの回答は、論理的にはピントはずれというしかない。問題は、このようなピントはずれの回答がなぜ修正もされずに記事となって出てしまうかということだ。これは、この報道をする人間たちに、これがピントはずれだという意識がないのか、あるいは、本当のことを言うことが出来ないので、あえてピントはずれであっても問題にならないようなことを言っているだけなのか。

ピントはずれの発言がそのまま記事として出てしまうのは、マスコミに大きな責任があるだろう。本来なら、ジャーナリズムを実現する媒体として新聞などが機能していれば、このようなピントはずれは記事になる前に批判されてしかるべきである。それが批判もなく、また修正・追加発言があるのでもなく、これだけで発言が終わってしまうのは、政治家の資質の問題以前にマスコミの問題があるだろう。マスコミが批判的観点を持っていれば、ピントはずれの回答をするような政治家は今よりずっと減っていくはずだ。

次のインタビューは

「――暫定税率を廃止するとどんな影響があるのか。

 「道路特定財源の税収五兆四千億円のうち、暫定税率による税収は二兆六千億円だ。財源のおよそ半分がなくなれば、道路整備も半分やめることになる」」


と書かれている。これは論理的には飛躍があるものの、最初のインタビューほどのピントはずれはない。この発言は、「財源のおよそ半分がなくなれば、道路整備も半分やめることになる」という主張の正しさを確かめようがないので、論理的には、正しいか間違っているかという命題の真偽の問題が気になるが、正しいという前提で受け止めれば、一応質問の回答にはなっている。

次のインタビューは、

「――民主党暫定税率廃止でガソリンが値下がりするとして、国民に支持を求めている。

 「道路は整備も補修もされなくなり、危険だという議論を加味していない。『ガソリンは安い方が良い』という理由で暫定税率継続に反対するのは、思考停止状態だ」」


ということを語っている。これは、民主党の主張を「暫定税率廃止でガソリンが値下がりする」と単純に理解していいのかどうかということに問題を感じる。マスコミが、このような紋切り型のまとめ方をするから、本来の論点がボケてしまい、ピントはずれの回答がなされるのではないかとも思われる。

もし、民主党の主張が、ガソリンの価格を下げることだけにあるということを前提にすれば、「道路は整備も補修もされなくなり、危険だという議論を加味していない」という指摘は正しくなる。ガソリンの価格のことしか考えていないのであれば、道路の整備や補修などは考えていないということになるからだ。しかし、果たしてそうなのだろうか。この回答は、質問自体が正しいのであれば、論理的には正当な回答だが、もし質問がピントはずれであるなら、民主党を誹謗中傷する質問となる。自民党にとって都合のいい質問をしてくれたと、自民党は喜ぶだろう。インタビューをした記者にどのような意図があったのか、勘ぐりたくなるインタビュー内容だ。

この記事の後半では、民主党税調副会長 古川元久氏に対するインタビュー記事が掲載されているが、その最初のインタビューは次のようなものだ。

「――暫定税率はなぜ廃止する必要があるのか。

 「もともとは道路特定財源一般財源化が目的で、暫定税率廃止が目的ではない。道路だけを聖域扱いして、財源を確保する時代ではなく、一般財源化して、道路を含め、社会保障、教育などの行政ニーズに、優先順位をつけて予算配分する必要がある。民主党は昨年末に決めた税制改革大綱で、燃料にかかる税金をすべて見直し、環境負荷に対して課税する形で、自動車関係諸税を全部整理することを決めた。その第一段階が暫定税率廃止で、第二段階では本則部分を含めて見直す」」


ここでは、「暫定税率廃止が目的ではない」という回答がされている。そうすると「暫定税率廃止でガソリンが値下がりする」というのは、結果としてそうなるということであって、ガソリンの価格だけを考えて廃止を主張しているのではないということがわかる。そうであれば、道路の補修や整備のことは、別の問題として議論される可能性があると受け止めるほうが論理的にはまともだと思う。山本有二氏の反論は論理的には反論として機能していないように感じる。

ついでながら民主党古川元久氏の回答を論理的に分析してみると次のようなことが言える。ここでは自民党へのインタビューとは反対に、暫定税率廃止の理由を聞いている。山本氏の継続しなければならないという理由がピントはずれだったのに比べると、古川氏の廃止の理由は、論理的にはすっきりしているように思われる。

それは、原則としての「道路特定財源一般財源化」が目的であって、ガソリン税暫定税率の廃止は、その原則から派生するものとして論理的に導かれるからだ。ガソリン税道路特定財源の一つであり、その暫定税率を継続するということは、道路特定財源を続けるということに他ならない。道路特定財源を見直して一般財源化するのなら、まずはそれを廃止することが必要で、廃止した後に、必要であれば一般財源としての新たな税金を設定するということが論理的には正当な流れとなるだろう。

ガソリン税がヨーロッパに比べて安すぎるという議論もどこかであるようだ。それなら、ガソリンを安くするだけではなく、環境負荷をかけるような、レジャーに使うガソリンは税率を上げてもいいだろうという議論も生じるのではないかと思う。しかし、それはあくまでも一般財源としての税金であるべきだというのが民主党の主張だろう。とにかく税金を減らして、大衆の人気取りをするのが目的だとするのは、論理的には誹謗中傷に当たるだろう。

自民・民主の対立する主張において、少なくとも継続か廃止かというその理由に関しては、このインタビューを読む限りでは、論理的には民主党のほうがまともだと思う。しかし、マスコミ特にテレビなどの論調を聞いていると、民主党はあたかもガソリン価格を下げてドライバーの人気を取ろうというような姑息なポピュリズムに陥っているような宣伝がなされているのを感じる。しかし、まともな政治家であれば、そのようなポピュリズムは、車の使用者であるドライバーからもそっぽを向かれるということに気づくのではないだろうか。

民主党議員がすべてまともな政治家ではないという評価をしているのなら仕方がないが、これらのマスコミ宣伝は、全く事実に反したプロパガンダではないかと僕は感じる。むしろそのようなまともでない誹謗中傷で相手を攻撃するような自民党政治家たちのほうが、もはやまともな論理では自分たちの主張の正当性を語ることが出来なくなったのだということを暴露しているのではないかと感じる。もう少し、双方の主張を詳しく見てみたいものだと思う。