2006-08-01から1ヶ月間の記事一覧

名探偵は謎解きの際にどのように「考えて」いるのか

内井惣七さんの『シャーロック・ホームズの推理学』(講談社現代新書)には、名探偵シャーロック・ホームズの推理を巡って興味深い記述がある。名探偵の推理くらい「考える」と呼ぶにふさわしい現象はないかも知れない。それは知っていることを語るのではな…

「考える」と言うことの本質を考える

野矢さんの『はじめて考えるときのように』(PHP文庫)をヒントに「考える」ということを考えてみたい。まずは次の命題から考えてみる。 「「考える」って言うのも、結局、ぜんぜん心の状態や心の働きなんかじゃないんだ。」 この命題は、現象として我々…

政治は大衆運動だろうか?

「政治は大衆運動だろうか?」などと疑問文で書いたりすると、それは「そうではない」というような答を暗に主張しているようなものだ。こんなことを考え始めたのは、うるとびーずさんの「田中流選挙」という日記で紹介されていた、「戸田の分析:あえて勝利…

『下山事件(シモヤマ・ケース)』(森達也・著、新潮社)

ずいぶん前に買っておいた本だったが、昨日何気なく手にとって二日間で一気に読んでしまった。それくらい面白い本だった。面白さの要素はいろいろとあるけれど、推理小説的な謎解きの面白さも感じた。その部分はこれから読むかも知れない人に種明かしをする…

差別とバッシングのバックラッシュの論理、あるいは感情のロジック

内田樹さんの『私家版・ユダヤ文化論』では、それが不当であるにもかかわらず現実に発生しているユダヤ人への迫害というものを論じている。それが不当なものであることはほとんど全ての人が同意する。迫害をする人々の根拠となっている論理は、論理として間…

リベラルの側の失敗とバックラッシュ

今はやや下火になってきた感じがするが、ちょっと前の一時期にネット上での「サヨ叩き」というものが席巻した時があった。イラクでの人質事件に関連して、人質になった3人を叩く言説がその典型だっただろうか。そのほとんどは、論理としては全く不当なもの…

不当な差別・バッシングに合理的な理由はあるか

内田樹さんは『私家版・ユダヤ文化論』という本で「なぜ、ユダヤ人は迫害されるのか」ということを論じている。この問題に対する答は、「ユダヤ人迫害には根拠がない」と答えるのが「政治的に正しい解答」だという。つまりユダヤ人迫害は不当な差別・バッシ…

『はじめて考えるときのように』(PHP文庫)−−野矢茂樹さんの『論理哲学論考』

僕が強くリスペクトを感じる学者に、もう一人哲学者の野矢茂樹さんがいる。野矢さんは専門が論理学であるという親しみも感じているのだが、なんといってもリスペクトに大きな要因として感じているのは、ウィトゲンシュタインの『論理哲学論考』を理解するた…

文章の易しさと難しさ

学生の頃ウィトゲンシュタインの『論理哲学論考』を読んで、これほど難しい本はないと思った。書いてあることがさっぱり分からないという感覚を持ったものだった。年をとって、野矢茂樹さんを通じてこれを学び直したら、ようやくその文章が分かりかけてきた…

感情のロジックと本当のロジック

今週のマル激を聞いていたら、宮台氏の言葉で「感情のロジック」というものが聞こえてきた。これは面白い表現だなと思った。感情を否定して、事実と事実のつながりの整合性を見るのがロジックのはずなのに、感情と直接結びついたロジックがあるという指摘な…

田中康夫長野県知事に対するバックラッシュ

宮台真司氏の『バックラッシュ!』におけるインタビューでの考察を見ていたら、先の長野県知事選で敗れた田中知事に対しても同じような構造があったのではないかと連想させるような部分があった。それは、バックラッシュ現象というのは、論理的に考えてみれ…

靖国問題の原点

神保哲生・宮台真司両氏がやっている<マル激トーク・オン・デマンド>では素晴らしいゲストを招いていることが多いが、これをきっかけにしてリスペクトの対象になるような人にたびたび出会うのを感じている。先日も東京理科大教授の三土修平さんをここで見…

教育者としてのリスペクトを感じる内田樹さん

もう一人、僕が強いリスペクト(尊敬)を感じる学者に内田樹さんがいる。内田さんに感じるリスペクト感は、宮台氏と仲正さんに感じるものとはちょっと違う。宮台・仲正両氏については、あくまでも学者としての面にリスペクトを感じるのだが、内田さんには教…

仲正さんの北田暁大氏批判 2

僕は宮台真司氏を一流の学者としてリスペクトしているが、同じようにリスペクトの対象にしている人に仲正昌樹さんがいる。個人的な好みとしては、仲正さんの方に親近感を感じる。宮台氏は、あまりにも正統派のヒーロー過ぎて、その欠点や弱点が見つからず、…

数学における文章理解

数学の本の読み方は、他の分野の本の読み方と違う、かなり特殊性を感じるところがある。数学というのは、その内容においては誰が考えても同じ結論に達するものとして考えられる。つまり内容的な個性はないと言える。個性があるとしたら、その書き方と言うこ…

宮台真司氏の論理展開 5

宮台氏が語る『バックラッシュ!』での次の命題を考えてみよう。それは、 「丸山がインテリの頂点だったために亜インテリの反発を買った。」 という命題だ。丸山というのは丸山真男のことであり、個人名が語られた命題ではあるが、これは「一流の学者」の代…

宮台真司氏の論理展開 4

宮台氏は『バックラッシュ!』(双風社)冒頭のインタビューの中でいくつかの命題としての言明を語っている。その命題の論理的根拠をたどってみようと思う。まずは次の命題から考える。 「権威主義者には弱者が多い。」 この命題には何となく正しさを感じる…

宮台真司氏の論理展開 3

宮台真司氏が語る 「不安こそはすべてのバックラッシュ現象の背後にあるものです。」 という判断が、いかにしてもたらされるかという論理の流れをたどってみたいと思う。これは直感的にはそうだと思うものである。バックラッシュ現象というものが、そもそも…

宮台真司氏の論理展開 2

宮台真司氏が『バックラッシュ!』(双風社)で語っている、バックラッシュ現象の分析の論理を細かくたどってみたいと思う。宮台氏の論理というのは、その膨大な知識と論理能力の高さから、必ずしも自明に分かるような論理の展開をしてくれていない。現状認…

宮台真司氏の論理展開

先週のマル激だっただろうか、宮台真司氏が、福田康夫氏の総裁選出馬辞退についてこんなことを語っていた。 現段階では安倍氏に勝つ確率は低いし、勝ったとしても僅差の勝利になる。 負ければ実績に傷が付くことになる。 勝ったとしても僅差での勝ちなら、安…

「思考言語」という言い方について

「思考言語」という言葉を初めて聞いたのは、養護学校で障害児教育に携わっていたときだった。障害児の中には、言語を話す機能に障害があるため、表出される言語はないものの、こちらが話す言語はよく理解し、文字盤などを使って何らかの表現を引き出すこと…

長野県民は田中康夫さんの何を否定したのか

否定の論理構造という視点から長野県知事選の結果を考えてみたいと思う。田中さんは7万8000票差で破れたという。これを大差だと見る見方もあるが、田中さんには53万票くらいが入ったというから、決して否定されたわけではないという見方もあるだろう…

否定の論理構造

野矢茂樹さんの『『論理哲学論考』を読む』という本の中の「否定詞は名ではない」という言葉が気にかかっている。「名」というのはウィトゲンシュタインの哲学において特別な意味を持っている用語なので、これの意味を正しく理解するのがまた難しいのだが、…

「靖国問題」と「靖国参拝問題」

以前に高橋哲哉さんの『靖国問題』(ちくま新書)を参考にして「靖国問題」を考えてみた。高橋さんは哲学者なので、哲学者としての視点から「靖国問題」を捉えると、どのような論理展開になるかということがこの本を学びたいと思った大きな理由だった。哲学…

言葉が現実を切り取って意味づけていくと言うことについて

亀田選手の世界戦については、その判定結果が問題になり、多くの人がそれに対して意見を語っていた。亀田選手を擁護する人は少なく、批判する人が多いというのが図式だったようだ。僕は、亀田選手の試合そのものよりも、その後の日本中の反応の方が面白かっ…

仲正さんの北田暁大氏批判 1

『ラディカリズムの果てに』の中に書かれている、仲正さんの北田暁光氏批判を考えてみたいと思う。これは、前提としては、仲正さんが記述する「事実」が正しいものとして考える。北田氏と仲正さんの間に何があったかは、仲正さんが語ることで知る以外に方法…

抽象的な批判と具体的な批判

仲正昌樹さんは『ラディカリズムの果てに』(イプシロン出版企画)という本の中で「ラディカル」というものについて語っている。それは、「ラディカル」の批判を語っているのだが、「ラディカル」という抽象概念そのものの批判と、「ラディカル」を体現して…