高速道路の借金

高速道路の借金について、山崎養世さんの『道路問題を解く』(ダイヤモンド社)という著書から抜き書きしてその部分を考えてみようと思う。この借金に関しては、マスコミの報道では、高速道路の通行料金収入の一部を宛てて返済する計画が語られている。そしてそれは、マスコミに寄れば今のところは順調に返済されているらしい。この借金が、もし料金収入がなくなれば返せなくなるし、ましてや国民の税金でこれを返すという民主党案(これは山崎さんのアイデアだと思うが)には、「道路を使わない人たちにも道路の借金の負担を押しつけている」という批判が語られている。

この批判は全く的外れではないかというのが、山崎さんの本を読んだあとでの感想だ。この借金の問題は、多くの人が批判的に扱っているだけに、高速道路の問題を論理的に理解する鍵になるものではないかと思われる。詳しく考察してみたいと思う。

高速道路の借金の本質的問題は、借金をしてまでも作り続けるという現在の制度が全く不合理でそれを変えなければならないということだ。高速道路を造るのに、これからも借金が必要なのかどうか。山崎さんの論理展開では、この借金は全く必要のないものとして主張されている。借金で作り続けるという制度は、自由に金をばらまくためにこそ必要なもので、まさに利権を温存するために残されたものであるという主張だ。

これが本質的な問題なら、そこから派生する現実的な問題は、今までにしてしまった借金の返済をこれからどうするかという問題だ。道路公団民営化の方針では、高速道路の料金収入から返済することになっているが、これが果たして完済可能なものかどうかを山崎さんは考察している。そして、今の道路公団改革のやり方が、実は全く危険な、将来大きなリスクを伴うものになっていることを指摘する。山崎さんは、この著書の37ページで次のように書いている。


「一般道路の問題は、税金のムダ使いの問題です。しかし、高速道路の問題はそれより深刻です。巨大な借金を抱えているために、将来、国民が巨大な損失を負担するリスクがあるからです。」


高速道路の借金は、現在40兆円あるといわれている。この額の巨大さがまず一つの問題で、今の民営化案による計算では、この借金が45年かけて返済される予定だ。そうすると、金利を合わせた総額では、金利を4%と想定した場合でさえ84兆円になるという。(このあたりのデータは山崎さんの『大人のための税金の絵本 高速道路はタダになる!』(新風舎)からとっている)

山崎さんに言わせると、この4%というのは超低金利であり、これ以上下がることはないだろうが、いつあがるかはわからないものだという。しかもこれからあがりそうな要素はたくさんあるので、45年間も4%で行くことはあり得ないとも語っている。もし金利が6%を超えると、その返済総額は100兆円を超えるという。

単純計算すれば、84兆円を45年間で返すとなれば、年平均で2兆円を少し欠けるくらいのお金が必要になってくる。もし100兆円を超える総額になれば、2兆2000億ほどの平均の返済になる。高速道路の料金収入は、現在の段階で約2兆5000億だという。この収入は現在の段階でのものだ。将来的には人口が減っていくことが予想される日本では、この料金収入も増える可能性はきわめて少ない。むしろ減っていくと考えた方がいいだろう。この借金返済の計画はきわめて甘いといわざるを得ないのではないだろうか。

また、今の高速道路の制度では、まだ借金が終わりではないという。新しい高速道路はまた借金で造られていく。この借金が45年の間に10兆円とも20兆円ともいわれている。この新しく造られる高速道路は、果たして料金収入で採算がとれるところがあるだろうか。これもきわめて疑わしいという。この借金は、現在の黒字路線である東名や名神の収入を当てにして借金をしているようにしか見えない。だが、その東名や名神も将来的には収入が減っていくのではないだろうか。どうも借金の返済計画は将来破綻する可能性が大きいような感じだ。

この借金の破綻が起こったとき、もし民間企業であれば、その企業が倒産して終わりになるかもしれない。銀行のように、その破綻が国民全体に及ぶと考えられた場合は、それを国家が救済するというケースがあるかもしれないが、高速道路の場合はどうなのだろうか。この借金を国家が負担することになっていれば、それは国民全体が背負う負担になる。山崎さんは、40ページで次のようにこのあたりのことを解説している。


「今の日本では超低金利ですが、将来は、金利の上昇要因が目白押しです。世界的なインフレ傾向など、海外の要因もあります。国内では、財政赤字がふくらみ続けています。国はお金が必要です。その上、日本人の貯蓄が細ってきています。引退世代が資産の取り崩しを始めているからです。つまり、お金への需要は高く、供給は減るわけですから、お金の値段である金利が上がることが予想されます。さらに、国内で資金が足りず、海外で日本の国債を売ることになれば、金利は跳ね上がるでしょう。そのとき、高速道路の借金の返済が出来ないツケを、国民が払うのです。
 こんな理不尽のことが起こりうるのは、高速道路の借金は、最後には国民が払う仕組みになっているためです。どういうことでしょうか。
 それは、民営化といいながら、旧道路公団の借金は、民営化後に発足した高速道路会社が持っているわけではないのです。借金を、日本高速道路保有・債務返済機構(略称は高速道路機構)なる新たな独立行政法人に「飛ばし」たためです。この法人は職員が85人の国営ペーパーカンパニーです。資産があるといっても、全国の高速道路が売れるわけではありません。旧国鉄の汐留や梅田の操車場跡地のように、使わないから売却できるというものはないのです。つまり、売れる資産はないのです。
 それならば、将来金利が上昇して、巨額の借金の返済が出来なくなり、損失が発生したらどうなるのでしょうか。そのときは、資産もなく従業員もほとんどいない高速道路機構が抱えた借金は国民が負担するしかないのです。なぜなら、高速道路機構の借金は、国が貸し付けていたり保証しているものがほとんどだからです。高速道路機構が返せなくて、損が出たら、国民にツケを回す。借金爆弾です。これが道路公団民営化の実態です。
 日本の高速道路は、不便なだけではありません。国民は、高い通行料金と税金を払い続けたあげく、巨大な借金爆弾が爆発するリスクを、いつの間にか負わされているのです。」


長い引用になったが、これを読むと、マスコミ(特にワイドショー)の報道とは違って、高速道路の借金は今のままの制度を続けていけば、返せない危険があるどころか、さらにふくれて永久に重しとして国民にのしかかってくる危険があることがわかる。民主党案が、たとえ今の段階で税金をつぎ込むように見えたとしても、この負担が結果的に、今の制度が破綻する将来と比べて軽いものになるならば、選択肢としては大いに選ぶ価値があるものになるのではないだろうか。

マスコミの報道では、この借金爆弾に関して知らせたものを見たことがない。これは、マスコミがそのことを知らないとは思えない。マスコミの取材力があれば、この程度のことはすぐに調べられるだろう。それでもあえて報道しないとすれば、マスコミがそれを隠しているのか、あるいは山崎さんの情報が間違えているのかどちらかということになる。僕は、山崎さんを信頼しているので、細かい数字の点でのミスはあるかもしれないが、本質的な指摘では間違いないだろうと思っている。もし、マスコミがこの情報を隠しているとすれば、その意図を考えてみるのもおもしろいだろう。なぜ借金爆弾を語らないのか。

もし、今の制度(道路公団の民営化)が全く期待できないものであれば、もう最後に期待するのは民主党案しかないのだから、多くの人はそちらの方に関心を持ち、世論も大きく流れていくだろうと思う。この世論の流れを押しとどめる意図がマスコミにあるとすれば、それは民主党の失敗を誘導し、再び利権を温存する自民党政治に戻したいという意図をマスコミが持っていることの表れではないかとも感じる。今後のマスコミ報道を見守っていきたいものだ。

高速道路の借金が、やがては大きな破綻を呼び、国民すべてに大きな負担を強いるということがわかれば、高速道路の借金は受益者負担であって、それを利用する人間が負うべきだというようなことは言えなくなるだろう。今、税金でも何でも使ってそれを処理しなければ、将来の負担がもっと増えるというなら、おそらく現在の負担の方を選択するのではないだろうか。将来の負担は自分の問題だ。それが見えるような想像力を身につけたいものだと思う。

高速道路の借金の問題は、今のままではそれが将来的に破綻するということが我々にとって今の最重要な関心事になるだろう。そのほか、山崎さんが提出する解決策なら、他のどのアイデアよりも負担が軽くなるかどうかということが次の関心事になるだろうか。また、破綻するしかないような道路公団の改革がなぜなされたか、ということが日本の政治の未来を見る上では大切なことになる。高速道路がなぜ借金で造り続けられなければならないのか。そのからくりを知ることで、自民党政治が作り上げた利権構造というものが浮かび上がってくるのではないか。そしてそれを壊さない限り、国民にとっての真の利益がもたらされないということもわかってくるのではないかと思う。借金の問題を入り口にそのような方向にも考察の範囲を広げていきたいと思う。