読書

事実(知識)の面白さと理論(考察)の面白さ

森達也さんの『悪役レスラーは笑う』(岩波新書)を読んで以来、またかつてのプロレス熱が甦って、今プロレスに関する本をいくつか読んでいる。主に読んでいるのは、新日本プロレスでレフェリーとして活躍したミスター高橋さんが書いた一連の本だ。僕がプロ…

森達也さんのおもしろさ

森達也さんの本を立て続けに2冊夢中になって読んだ。一つは『悪役レスラーは笑う』(岩波新書)というもので、これは戦後まもなくアメリカで活躍したグレート東郷というレスラーについて書かれたものだ。僕は小学生の頃に若いアントニオ猪木のファンになって…

『ネット時代の反論述』(仲正昌樹・著、文春新書)

仲正さんの新しい本を買った。僕が仲正さんを知ったのは、宮台氏と対談をしていたのを読んだり聞いたりしたことが最初だった。宮台氏に対しては、これはすごい人だと感じてから、その言説をもっと知るにつけその印象が強まっていくのを感じている。宮台氏の…

問題意識と読書

僕はちょっと前に『バックラッシュ』(双風舎)という本を買ったのだが、この中に書かれている多くの言説の中で関心を持っていたのは宮台真司氏のインタビューを綴った「ねじれた社会の現状と目指すべき第三の道−バックラッシュとどう向き合えばいいのか−」…

『大衆運動』(エリック・ホッファー・著、紀伊國屋書店)

大衆運動というものは、僕にとっては憧れでもあり、失望と反発を感じるものでもあった。初めてメーデーに参加したときの、大勢の人の連帯のエネルギーに高揚した気分は、それ以上の感動を味わうことが難しいと思ったくらいだ。自分がこの人たちの一員である…

『下山事件(シモヤマ・ケース)』(森達也・著、新潮社)

ずいぶん前に買っておいた本だったが、昨日何気なく手にとって二日間で一気に読んでしまった。それくらい面白い本だった。面白さの要素はいろいろとあるけれど、推理小説的な謎解きの面白さも感じた。その部分はこれから読むかも知れない人に種明かしをする…

『はじめて考えるときのように』(PHP文庫)−−野矢茂樹さんの『論理哲学論考』

僕が強くリスペクトを感じる学者に、もう一人哲学者の野矢茂樹さんがいる。野矢さんは専門が論理学であるという親しみも感じているのだが、なんといってもリスペクトに大きな要因として感じているのは、ウィトゲンシュタインの『論理哲学論考』を理解するた…

江川達也氏の言説は一流か

僕は、漫画家の江川達也氏を神保哲生・宮台真司両氏のマル激トーク・オン・デマンドで知った。宮台氏は江川氏を高く評価しており、その見識の深さを認めていた。しかし、江川氏は、他の所では変人として有名になっているようで、必ずしも高く評価している人…

『国家の品格』の二流性 8

藤原さんは、「自由」と「平等」というものを批判してこれを否定しようとしている。これは、フランス革命が掲げた価値観で、西欧の価値観として代表的なものだけに、藤原さんの批判の対象になったのではないかと思われる。しかし、これは「価値観」なので、…

『国家の品格』の二流性 7

藤原さんの民主主義批判について考えてみようと思う。僕も、民主主義のすべてが素晴らしいとは思わない。板倉聖宣さんが語るように、民主主義は最後の奴隷制だと思う。「最後の」というのは、これを最後にして欲しいという願望と共に、民主主義は、そこで奴…

『国家の品格』の二流性 6

ロックに関連させて、資本主義的な価値である「自由」「平等」「民主主義」などを批判した第三章の検討をしてみようと思う。この章では、ロックについて次のような記述がある。 「著書中に「人間は生まれながらにして完全な自由を持つ。人間はすべて平等であ…

『国家の品格』の二流性 5

藤原さんは、第三章「自由、平等、民主主義を疑う」の冒頭で、「論理だけでは人間社会の問題の解決は図れない」という主張をしている。これはある意味では正しい。しかし、正確な言い方ではない。正確には次のように言わなければ正しくないだろう。<人間社…

『国家の品格』の二流性 4

「論理は長くなり得ない」(55ページ)と言う記述の内容を批判することにしよう。ここでの二流性は、この議論が俗受けしやすい、論理(理屈)の攻撃になっているところだ。長い論理は屁理屈の代表のように語られ、短い論理は、短絡的な強弁のように非難さ…

『国家の品格』の二流性 3

『国家の品格』では「重要なことは押しつけよ」(49ページ)という議論が展開されている。これは理由なしに正しいことがあるという前提から、それは押しつけることこそが正しいという主張をしているのだと思う。これは一種の「パターナリズム」というもの…

『国家の品格』の二流性 2

内田樹さんは、「藤原さんの言っていることのコンテンツについては、ほぼ95%私は賛成である」と語っていた。そういう意味では、この本はごく常識的なことを語っていると思う。それは、見方を変えれば、常識を越えるような「目から鱗が落ちる」というよう…

『国家の品格』の二流性 1

二流性を考察するなどと言うと、何か悪口を言っているように感じる人もいるかも知れない。これが、まともな論説になるのは、感情的なすっきり感を持つための考察ではなく、あくまでも冷静な論理的考察にならなければならないと思う。そもそも二流と言うこと…

『哲学・航海日誌』(野矢茂樹・著、春秋社)

野矢茂樹さんという哲学者にはまって、ヤフーで野矢さんの本をかなり買い込んだ。それが届いたので読み始めているのだが、やはり面白い。「読書」のカテゴリーで感想を書いたりしようと思ったのだが、読むそばからいろいろな思いが浮かんでくるほどこの本が…

『現象学ことはじめ』(山口一郎・著、日本評論社)

この本の序章には次のような文章がある。 この「受動性」の領域の開拓は、現代哲学の展開にとって、もっとも革命的で画期的な出来事でした。この領域こそ、デカルト(1596〜1650)に始まる近世哲学以来、現代哲学に至るまで、問題にされたり、無視さ…

『無限論の教室』(野矢茂樹・著、講談社現代新書)

この本は、今日図書館で借りたのだが早くも半分読み進んだ。一言で言えば面白いという感想だ。面白いのでどんどん読み進むことが出来て、半分まで行ってしまった。数学屋にとって、特に論理面が好きな僕にとってはこの本は、関心を持っていることのほとんど…

『「リアル」だけが生き延びる』(平田オリザ・著、ウェイツ)

平田オリザさんの本は、講談社新書の『演劇入門』を手にしたのが最初だった。その発想の斬新さは、まったく考えたこともない視点を教えてくれ、しかもその視点から見ることの素晴らしさをたくさん教えてくれた。 『演劇入門』でも、「演劇のリアル」とは何か…

『同一性・変化・時間』(野矢茂樹・著、哲学書房)

同一性と変化というものは、形式論理的に捉えれば絶対的に対立する相容れないものである。それが同一性を保っていれば、どこも変化していないし、どこかが変化していればそのことで同一性は崩れている。 しかし、世の中の現象というのは、変化しているにかか…

『社会学の基礎』(今田高俊・友枝敏雄・編、有斐閣Sシリーズ)

この本は、社会学の教科書として書かれたものだが、第2部の「社会学の基礎概念」の「行為と役割」の項目を宮台真司氏が書いている。そこに惹かれて購入したのだが、これは全体としてもたいへん優れた本だと感じる。 それは、非常に志の高い意識で書かれてい…