2008-01-01から1年間の記事一覧

「私は証明可能ではない」という命題

野矢茂樹さんは、『論理学』(東京大学出版会)という本の中で、ゲーデルの証明の核心となるアイデアを次のように書いている。 「私は証明不可能だ」を表現する式を自然数論の中で表現する。 「私は証明不可能だ」、すなわち「私は証明可能ではない」という…

数学的理解と数学論的理解

『不完全性定理』(林晋・八杉満利子:著、岩波文庫)の「まえがき」の冒頭に「ほとんど予備知識のない人が、入門書だけを読んで不完全性定理の数学的内容を理解することは不可能である」との宣言のような断定がある。そして「この定理を数学的にも理解したい…

教育における誤謬論の重要性

二十歳前後の頃、数理論理学を勉強したことでようやく数学についての理解が出来るようになってきた。そのときに、論理学の一分野として弁証法というものにも関心を抱き、いくつかの入門書を読んでみたのだがさっぱり判らなかった。しかし三浦つとむさんの『…

田中康夫さんの代表質問から構造を読み取る

「田中康夫さんの代表質問」から、日本社会の構造を語っている部分を読み取り、その構造の下での問題の解決の主張という解釈で、その語っていることの理解を図ってみよう。なるほどと思えるような全体性の把握が出来、それならこのような対処が正しいだろう…

麻生首相の所信表明演説の評価から「うまい説明」を考える

国会では麻生首相の所信表明演説を受けて今論戦が行われている。対立する側が、その不備を指摘してマイナスの評価をするのが当然なら、それを支援する与党の方は、優れている点を指摘してプラスの評価をすることになるだろう。これはどちらにも一理ある議論…

個室ビデオ店放火事件の背後に潜む構造

個室ビデオ店放火事件に関しては多くの新聞がそれを社説として論じている。それは、この事件を単なるニュースとして扱っているのではなく、ここに現代日本が抱える問題点が象徴的に現れていると判断しているのだろう。だが、各社が語るその問題提起は、どう…

形式システムにおける証明の概念

『ゲーデル、エッシャー、バッハ』(ダグラス・R・ホフスタッター著、白揚社)という本の第2章「数学における意味と形」に「pqシステム」と呼ばれる形式システムが紹介されている。この本は、ゲーデルの不完全性定理の「うまい説明」を語るものだが、そ…

うまい説明とは

仮説実験授業研究会の牧衷さんという人が『運動論いろは』(季節社)という本を書いている。牧さんは、いわゆる市民運動の専門家で、そこには長年の経験から得られた豊富な知識と教訓が語られている。運動という予測のつかない、ある意味では混沌とした対象…

麻生さんの所信表明演説 1

麻生さんの所信表明演説があった。その内容については、専門家が詳しい解説をしてくれるだろうと思う。そこで、内容そのものには立ち入らずに、その主張の論理的側面に注目して、ある種の前提から論理的に導かれた帰結ではないかと思われる部分を探してみた…

ブログ・エントリーのための覚え書き

いくつか気になっていることがあって、いろいろと資料を調べているのだが、なかなか考えがまとまらず資料も集まらないので書けないでいることがある。それを忘れないうちにちょっと記録しておこうと思う。 1 民主党の政策が財源の裏付けがないということに…

一般論的主張と現実解釈との整合性

内田樹さんの「私の好きな統治者」というブログ・エントリーがようやくパソコンで読めるようになった。記憶にあるように、ここに書かれた内容は「宰相論」に関する一般論がほとんどだった。その一般論を語る過程で、現実の「宰相」に当たるかもしれない麻生…

麻生新総裁誕生の評価について 3

毎日新聞の社説では、その表題に「理念も政策もなき勝利」と書かれているように、総裁選に対する評価はかなり明確に出ているものと思われる。冒頭にも次のように書かれている。 「内閣支持率低迷が続き、福田氏は自ら衆院を解散して総選挙に臨む自信がなかっ…

麻生新総裁誕生の評価について 2

朝日新聞の社説では、麻生新総裁誕生についての評価は、慎重に断定を避ける言い方をしているように見える。「耐用年数が過ぎたか」というふうに疑問文の形で語っている。これは反語的に、「耐用年数は過ぎた」のだという断定的な評価だと受け取った方がいい…

麻生新総裁誕生の評価について 1

自民党総裁に麻生氏が選ばれて、新聞各紙はそのことについての社説を書いている。出来レースと言われ、総選挙用のパフォーマンスに過ぎないと言われていたこの総裁選だが、予想以上の大差で麻生氏が勝ったことによって、その出来レースぶりとパフォーマンス…

デカルトの偉大さ

ウィトゲンシュタインが考えたような命題の集まりである世界の全体が、どのようにして広がっていくかという過程を考察しようとして哲学史を調べている。哲学に革命的な進歩をもたらした発想は、ほとんどの場合それまで自明だと思われていたことを疑い、世界…

誰が優れた人物なのか

二十歳前後の学生の頃、自分の教養を高めたいと思い、そのためにはどのような学習をすればよいかを考えたことがあった。とにかく優れた人物が語ることを理解して、それを通じて教養を高めるということがいいのではないかという結論に達した。しかし、どの人…

世界を広げるための発想・思考

世界というものを命題の集まりであると考えたとき、最も基礎的な命題から他の命題が論理的に導かれるという構造になっていたら、つまり公理的体系になっていたら、その世界は全体像の把握が容易に出来るだろう。数学というのはユークリッドの幾何学を第一歩…

自民党政権の構造的欠陥

第388回のマル激では飯尾潤氏(政策研究大学院大学教授)をゲストに招いて、自民党政権の評価をしていた。その中で面白いと思ったのは、自民党政権には構造的な欠陥があるということだった。たとえば、自民党政権のもとでは赤字がふくらんでいくという現…

汚染米問題に関する論理的な疑問

「<事故米転売>太田農相、事態軽視?「じたばた騒いでない」」という9月12日20時14分配信の毎日新聞の記事によれば、太田農水相は「「(汚染米から検出されたメタミドホスは)低濃度で、人体への影響はないと自信をもって言える。だから、あまりじたばた騒…

世界の存在とその認識

「世界」という言葉は非常に抽象的でありながら日常的にもよく使われる平凡な言葉だ。だがそれは高度に抽象的なので、それがどのような過程を経て具体的属性が捨象されているかに様々な違いが生じるだろう。ある人が考える「世界」と他の人が考える「世界」…

注目していた事柄のいくつかについて

山本一太氏が総裁選立候補を断念したというニュースがあった。残念なことだ。立候補に必要な20人の推薦人が集まらなかったという。以前に河野太郎氏が立候補を表明したときも20人の推薦人が集まらずに立候補そのものが出来なかった。そして、河野氏の時…

自民党総裁選に立候補者が乱立する理由

民主党の代表選挙が小沢氏の対抗がなく、無投票で当選が決まりそうになったとき、マル激の中で宮台氏が元代表の前原氏に立候補を促したという話をしていた。それは形だけでも対立候補を出して民主主義の形態をとっているように見せるというパフォーマンスと…

比例代表選出の議員が離党した場合は議員辞職が当然だ

渡辺秀央、大江康弘両参院議員が離党届を提出し新党「改革クラブ」を結成したニュースが報じられたのは8月の終わり頃だったが、続報として議員辞職したというニュースは未だに報じられていない。これに対して、民主党の小沢一郎代表は1日の記者会見で「「…

福田首相辞任の理由

福田首相の辞任の理由はいろいろなレベルから考察することが出来る。その気持ちのレベルから言えば、「嫌になった」「意欲が無くなった」ということを理由に挙げることが出来るだろう。しかし、この理由で納得していたら、人間というのは気持ちしだいでどう…

「何故」を追い求める論理学

昨日、福田首相の突然の辞任発表があった。お昼のニュースでは、防災の日の大規模な訓練で指導者として活動する姿を見たばかりだったので、この突然の辞任劇とのつながりが整合的に理解できなかった。「辞任発表があった」という事実は、その記者会見などの…

論説文の主張を形式論理で理解する 2

前回のエントリーでは朝日新聞が社説で展開していたグルジアでの紛争の問題を考えてみたが、田中宇さんの「米に乗せられたグルジアの惨敗」という記事が同じ問題を扱っていて、違う視点を提出しているのを見つけた。社説では一般的な前提として分かりやすい…

論説文の主張を形式論理で理解する 1

論説文の主張というものを形式論理のメガネで見てみようかと思う。論説文というのは、事実を単に記述するだけのものではなく、そこに中心となる主張が発見できる。そして、それが論説であるということは、その主張が論理的に根拠づけられているということで…

報道記事の形式論理的分析 1

インターネットで配信されている「「問題ない」太田農水相が辞任を否定 事務所費問題」(8月26日12時21分配信 産経新聞)という記事の内容を形式論理の観点から眺めて見ようと思う。形式論理の観点から眺めるというのは、そこに書かれている文章を「命題」と…

マルクス主義批判

僕にとってマルクス主義批判の内容は、ずっと長い間「官許マルクス主義批判」だった。それは三浦つとむさんが展開していた批判で、共産主義政党などの権威あるものが主張していた、権力からのお墨付きをもらったマルクス主義に対する批判というものだった。…

不可能性の証明

大学生の頃に夢中になって考えていたパズルに次のようなものがあった。5行5列の正方形の形に並んだ黒い点がある。 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・この黒点を一筆書きのようにして線で結ぶのだが、そのときに…