内田樹

私たちを幽閉している檻としての言語

内田樹さんが『こんな日本で良かったね』で語る次のテーマは「言葉の力」というものだ。ここにはどのような構造が語られているのか。それはこのエントリーの表題にした「檻」で比喩されるような構造だ。「言葉の力」のイメージが、どのようにして「檻」とい…

言葉と思考の関係

内田樹さんの『こんな日本で良かったね』で語られる最初の文章は「「言いたいこと」は「言葉」のあとに存在し始める」と題されている。これは、まえがきにあったように「人間が語るときにその中で語っているのは他者であり、人間が何かをしているときその行…

一般論的主張と現実解釈との整合性

内田樹さんの「私の好きな統治者」というブログ・エントリーがようやくパソコンで読めるようになった。記憶にあるように、ここに書かれた内容は「宰相論」に関する一般論がほとんどだった。その一般論を語る過程で、現実の「宰相」に当たるかもしれない麻生…

内田樹さんの分かりやすさ 10

内田さんの『寝ながら学べる構造主義』では構造主義の四銃士としてレヴィ・ストロースを解説している一章がある。レヴィ・ストロースは、構造主義においては最も重要な思想家の一人として語られることが多い。構造主義の考え方を使って大きな成果を上げた人…

内田樹さんの分かりやすさ 9

内田さんは『寝ながら学べる構造主義』の中で、ロラン・バルトの「作者の死」という概念を説明する。この概念は、非常に分かりにくいものだと思う。この概念に最初に僕が出会ったのは、これを批判する三浦つとむさんの文章でだった。三浦さんは「東西粗忽長屋…

内田樹さんの分かりやすさ 8

内田さんは、フーコーによる狂気の考察を『寝ながら学べる構造主義』(文春新書)の中で解説をしている。これをウィキペディアの「ミシェル・フーコー」などで見ると次のように書かれている。 「フーコーは『狂気の歴史』(1961年)で、西欧世界においてかつて…

内田樹さんの分かりやすさ 7

現代思想というのは非常にわかりにくい内容を持っている。哲学者が語ることでも、古代ギリシアや中世ヨーロッパくらいまでなら、その内容に難しさはあっても、何を言っているのか内容そのものがつかめないということはない。内容を正しく受け止めるのは難し…

内田樹さんの分かりやすさ 6

適切に表現された文章を読んだり、あるいは発言を聞いたりしたとき、我々は「目から鱗が落ちる」という経験をすることがある。これは、今までは何となくそう思っていたという、何かもやもやとしていた事柄が、まるで霧が晴れるかのようにはっきりと見えてくる…

内田樹さんの分かりやすさ 5

内田さんの『寝ながら学べる構造主義』(文春新書)でのソシュールの解説には、次のような文章が引用されている。 「それだけを取ってみると、思考内容というのは、星雲のようなものだ。そこには何一つ輪郭の確かなものはない。あらかじめ定立された観念はない…

内田樹さんの分かりやすさ 4

内田樹さんによって僕はソシュールの再評価をするきっかけをつかんだのだが、これは内田さんがソシュールの専門家ではなかったからそのような問題意識で内田さんの文章を読むことが出来たのではないかと感じる。ソシュールの専門家というのは、すでにソシュ…

内田樹さんの分かりやすさ 3

ソシュールに対する再評価を教えてくれたのも内田さんの『寝ながら学べる構造主義』(文春新書)という小冊子だった。ソシュールについても、僕は三浦さんの批判を通じてまず知ったために、何となく間違っているのかなという思いを抱いていた。特に当時養護学…

内田樹さんの分かりやすさ 2

内田さんの『寝ながら学べる構造主義』(文春新書)の中から、なるほどそのとおりだと思えるような説明を抜き出して、それがどうして分かりやすいのかということを考えてみようと思う。内田さんは第1章で構造主義に先行する思想史を作った巨人として、マルク…

内田樹さんの分かりやすさ 1

僕が内田さんの文章に接した最初のものは、『寝ながら学べる構造主義』(文春新書)という本だった。僕は、この本を読んで初めて「構造主義」というものがどういうものであるかという具体的イメージをつかむことが出来た。それまでは、三浦つとむさんの「構造主…

内田樹さんの語る中華思想 2

内田さんが語る中華思想のまず第一の特徴は、それが「ナショナリズム」ではないということだった。内田さんは、なぜ「ナショナリズム」ではないことを強調したのだろうか。この帰結そのものは、内田さんが定義するイメージから引き出せる論理的な帰結であって、…

内田樹さんの語る中華思想 1

内田樹さんは、2008年04月21日に書いた「中国が「好き」か「嫌いか」というような話はもう止めませんか」というエントリーの中で、そこに書かれた事柄を「書いていることは『街場の中国論』の焼き直しで」と言っている。中華思想について、このブログのエントリ…

内田樹さんの2008年04月21日のエントリーの論理的な分析

内田樹さんが2008年04月21日に書いた「中国が「好き」か「嫌いか」というような話はもう止めませんか」というエントリーについて、この文章の内容を論理的にどう受け止めるかということを詳しく考えておきたいと思う。僕のエントリーにコメントを寄せてくれた佐佐…

内田樹さんへの共感

内田さんの一番新しい本『ひとりでは生きられないのも芸のうち』(文藝春秋)を読んでいる。この本も随所に共感できる言葉があふれている。まずは、まずは長い「まえがき」からそれを拾い出してみよう。内田さんは、この「まえがき」を「「あまりに(非)常…

共感することと理解すること

僕は内田樹さんと宮台真司氏とが好きな著者で、その著書のほとんどを持っている。内田さんの本で持っていないのは、翻訳をしたものくらいだろうか。ただ、内田さんには「さん」をつけて呼び、宮台氏にはいつも「氏」という敬称をつけて呼んでいるように、こ…

自己実現幻想の弊害−−いつまでも子どもから脱しきれない若者たち

内田樹さんが「人生はミスマッチ」というエントリーでたいへん面白い文章を書いている。このエントリーの冒頭で内田さんは次のように書いている。 「リクルートの出している「RT」という冊子の取材が来て、「高校の先生に言いたいこと」を訊かれる。 中高…

格差は悪いことなのか

内田樹さんの「格差社会って何だろう」というエントリーが話題を呼んでいるようだ。はてなのブックマークも300近いものがつけられていた。これが話題を呼んでいるのは、内田樹ともあろうものがなぜあのような駄文を書くのか、という見方をされているから…

道徳と法律の社会法則

板倉聖宣さんは、社会法則を学ぶための授業書として「生類憐れみの令」と「禁酒法と民主主義」というものを作った。これは仮説実験授業の授業書として作られたもので、社会にも法則性があるのだという科学的視点を教えるための授業所だ。過去にこういうこと…

新たな「構造的弱者」

内田樹さんの『下流志向』という本の中から気になる部分を抜き出して考えてみようと思う。その一つは、「構造的弱者が生まれつつある」という一節だ。「構造的」という言い方には、個人の努力にもかかわらず、それを越えた大きな枠組みの力によって影響されてい…

『下流志向』が指摘する隠された真理

内田樹さんの『下流思考』が指摘する、今までの常識とは違う、かえって反するような事柄を考えてみたいと思う。子どもたちが勉強をしなくなったと言うことや、若者があまり仕事に関心をもっていないように見えることに対して、世間の見方というのはもっぱら…

「社長目線」という視点

内田樹さんの『下流志向』という本が売れているらしい。僕も内田さんのファンなので、この本を早速買って読んでみた。確かに面白い本であり、その面白さが大衆的に受けているのであれば、この本が売れるというのも理解できる。ただ、一つ気になるのは、この…

「労働」は義務か?

内田樹さんが、「創造的労働者の悲哀」というエントリーで、またまた反発を呼びそうな表現をしている。この反発は、おそらくその表現の内容よりも「書き方」に反応して起こるものだろうと思う。それがどのような文脈で語られているかを読みとらなければなら…

内田さんのフェミニズム批判の意味を考える 6

瀬戸さんが「母親と保育所とおむつ」というエントリーで最後に書いた、内田さんの「2006年07月23日 Take good care of my baby」の中の三砂さんの研究に関する部分の判断(解釈または感想)の残りの二つについて考えてみようと思う。2番目のものは、 2「そ…

内田さんのフェミニズム批判の意味を考える 5

瀬戸さんの「母親と保育所とおむつ」というエントリーの最後に書かれた、内田さんの「2006年07月23日 Take good care of my baby」の中の三砂さんの研究に関する部分の判断(解釈または感想)について考えてみようと思う。まずはそれを箇条書きにしてみる。 …

内田さんのフェミニズム批判の意味を考える 4

瀬戸さんの「母親と保育所とおむつ」というエントリーの中の、内田さんの文章に関する部分の記述の理解を図ろうと思う。前回と同様に、まずはその判断の部分を拾い出し、次にその判断の根拠になった事実の方を探そうと思う。まずは判断として見つけられるの…

内田さんのフェミニズム批判の意味を考える 3

瀬戸さんが「母親と保育所とおむつ」で主張していることを出来るだけ正確に読みとるように努力してみようと思う。これは意味を読みとると言うことだ。意味というのは、同じ形式であっても内容が違うと言うことがあるので、それを正確に読みとるのは難しい。…

内田さんのフェミニズム批判の意味を考える 2

瀬戸さんの「母親と保育所とおむつ」で主張されている内容に立ち入る前に、もう少し長い前置きを書いておきたいと思う。これは、内田さんが直接論じていることではないのだが、僕が内田さんの言説を肯定的に受け取る素地として考えておいた方がいいと思うこ…